四国で育まれる大和魂

〜第7回四国強化稽古に密着〜

全日本ウエイト制大会、カラテワールドカップ、カラテドリームカップ、全日本大会と、今年も数々の大会が予定されている。これら大会に備え、四国を中心とした強化稽古が行われると聞き、愛媛を訪れた。そこで見たものは、まさに“エリート育成場”と化した稽古だった−。


なんとも贅沢な強化稽古だった。稽古に参加した道場生の前に並ぶ先生方の中央には、選手強化委員会の総監督・三好一男師範、その脇にワールドカップ日本代表選手で主将を務める野本尚裕、同選手の前川憲司、第1回カラテワールドカップ中量級王者で選手強化委員の石原延支部長、ウエイト制を控える第3回カラテワールドカップ中量級4位の竹澤剛、原内卓哉支部長、井上達二責任者らが並んだ。普段はここに昨年の全日本大会で準優勝に輝いた逢坂祐一郎が加わる。稽古内容は必然的にトップクラスのものとなることだろう。その予想通り、強化稽古はまさにエリート育成場と化していた。

この合同稽古が始まった背景には、毎年、各国へ視察に訪れる三好師範が、現地で聞いたこんなエピソードがある。
「中米大会の視察に行った時、コスタリカの支部長が日曜日も返上して強化稽古をしていると教えてくれたんです。自らストップウォッチを持ってやっていると」

中南米におけるコスタリカの活躍はすさまじい。さらに強化稽古を重ねたことで団結力も増したという。そこに注目した三好師範は、「四国からも将来、ワールドカップや世界大会に出るような選手が育ってもらいたい」と、年4回のペースで2年前にスタートさせた。


 

三好師範をはじめ支部長・道場責任者たちはみな、豪華な顔ぶれだ
 
型は原内支部長が担当。相手がいた場合はどういう攻撃になるかも実演し、子供たちにもわかりやすく指導

子供たちの覚えの早さには、三好師範も驚いていた
 
続いて行われたテクニック講座は、現役時代から華麗な技で勝利を積み重ねてきた石原支部長が担当

石原支部長の説明に聞き入る子供たち
   

 

高知から三好師範の車に同乗させてもらい会場へと向かった。いくつもの大きな山々をくぐり抜けること2時間。愛媛県の瀬戸内海のすぐそばにある西条市総合体育館に到着した。ここは四国の中央に位置し、どの県からもアクセスしやすい。この日は、高速道路が1000円になった最初の日。岡山から駆けつけた石原&井上責任者も、「前は往復9000円以上もかかっていた」と喜んでいた。さらに、前回と同様に佐藤弥沙希、細川将大ら3名が「日本代表と一緒に稽古ができるチャンス」と、早朝5時前後に和歌山を出て、この稽古に駆けつけていた。

11時、稽古が始まった。基本と型を大切にするという意味もあり、最初に基本稽古が行なわれ、原内支部長による型の稽古に移った。今回の型は、「遠征鎮」。一つひとつ分解し詳しく説明していく。体の小さい子供たちが前、中央には黒帯や師範方が並び、一緒になって稽古に打ち込む。50分後、5分の休憩をはさみ、テクニック講座が始まった。「攻防のバランスが一番いい」と三好師範が指名した石原支部長が、利き足を効果的に使えるようにするための前足の使い方を、40分間、伝授した。



強化稽古のメインイベントは組手
 
6月ワールドカップを控えると野本と前川は、試合さながらの組手を見せた

同じくワールドカップに挑む佐藤弥沙希も、積極的に野本や前川など、トップ選手たちと組手をしていた
 
今年のウエイト制で大会で重量級に挑む竹澤

極東大会を1週間後に控えていた酒井瑞樹
 
今年初めてウエイト制大会に挑む細川将大

時には檄を飛ばしながら選手たちの稽古を見守る三好師範
 
自主的に組手に入る石原支部長

井上責任者
 
原内支部長。「彼らは友情参戦です。仲間に勝ってもらいたいという気持ちがあるのでは」と三好師範は分析する

 

この時点で午後1時。お昼休憩はない。再び5分の休憩をはさみ、ついに組手だ。黒帯、上級者が体育館に整列した。列の中には、支部長・道場責任者の姿もある。2分5ラウンドを1セットとして、激しい打ち合いが始まった。

その中でひときわ大きな音を立てて打ち合う選手がいた。野本と前川だ。ワールドカップまで残りちょうど3ヵ月。普段はバラバラの道場で稽古しているため、本気で技を出し、試し合えるこの機会は、絶好の稽古場だ。同様に、佐藤、竹澤、細川、酒井だけでなく、石原支部長や井上責任者も壮絶な組手を始めた。あっという間に彼らの全身から汗が噴出した。

上級者が終わると、今度は少年部と幼年が1分5ランドを1セットとして行ない、1セットずつ交互に行なわれる。途中、小学生の相手を務めるため、中学生は3セット連続で行なう場面もあった。そして、1時間45分が経過。じつに6セット、計30ラウンドにも及ぶ組手を全員がやり抜いた。まだ息の上がる選手たちの道着は、水を浴びたようにビショビショだ。

ラストを締めくくるのは、ユース合宿で行なっているスーパーサーキット。残りの力を使い果たすスーパーサーキットは、3セット行なわれた。体育館の床には、あちらこちらに汗が水溜りとなって落ちていた。



次世代も着実に育っている。昨年のカラテドリームカップ小学5年生男子の部で優勝した中平栄人
 
全日本ジュニア大会で準優勝に輝いたことがある山崎愛実。中平栄人とともにユース・ジャパンAクラス選手だ

組手が終わると、スーパーサーキットに移る。ユース選手が最前列に並んでスタート。この日一番動けていたのは、和歌山から駆けつけた細川
 
どんどんみんなの表情が険しくなっていく、声を出して、全員が完遂した

 

稽古の順番には理由がある。
「子供のうちに空手独特の動きを基本や型から学んでほしい。昔から型がキレイな選手は組手もキレイなんです。そしてテクニックを学び、組手で技を試す。最後にそれを支える体力をスーパーサーキットで作る」(三好師範)

3時ちょうど、無事に稽古が終わり、ジンギスカンを食べ、それぞれが帰路についた。
「これだけのメニューを一日でこなすわけですから、みんな大変だと思います。最初は全部できなくていいんです。今回は型だけ、次はテクニックまでと徐々にできるようになればいい。最近は、赤ワッペンのユース選手も出てきて、コツコツとやるのは本当に大事だなと感じています」

帰りの車の中で、三好師範はこう語った。後ろの席では、高知支部から参加した道場生がぐっすり眠りについていた。

四国で育まれる大和魂。四国と同様に最近、関西でも強化稽古は活発に行なわれている。関東地区も始める話が出ているという。この波は、全国に広まりつつある。

(空手LIFE 2009年5月号)


何よりも大変なことはみんなが集まることだという。しかし今回も100名強の道場生が参加。このチャンスを1分も無駄にしないように、みっちりスケジュールで稽古は行われていた


年間イベント一覧