「おおりゃあ!」
強烈な上段蹴りを腕でブロックした直後、思わず叫びがもれた。相手に対して発したものではない。それは己への叱咤だった。
倒れるほどの痛みはない。耐えられないほどの苦しさでもない。それは当たり前のことと、最初から覚悟を決めていた。それよりも、この挑戦を認めてくれた師範たちに対して恥ずかしくないものを見せているだろうか---そんな思いが叫びとなった。
全力でやれているか。
気合いは入っているか。
礼はきちんとできているか。
自分はこの場に値する人間か。
10人組手は、6人目を迎えていた。すでに突きや蹴りを全身に浴び、呼吸もやや荒くなっていたが、頭の中ではつねに客観的に自分自身の姿を観察していた。
4年ぶりの昇段審査には、さまざまな思いがあった。40歳という節目の年齢に達したこともある。総本部師範代として埼玉中央道場での指導をはじめたことで、今まで以上に率先して範を示さなければいけないという使命感も生まれていた。だからこそ、一瞬も妥協したくなかった。
ふつうなら疲労とダメージで失速してしまいがちな10人組手の後半。しかし、その動きはおとろえるどころか、時間の経過とともに活力がみなぎっていくようだった。7人目にして優勢勝ちを収めると、8人目も気合いとともに積極的に前進していった。
「動けてるぞ!」
審査委員長の緑健児代表が声をかける。緑代表は、人生で大きな影響を受けた人物のひとりだ。とくに2008年は海外の大会や指導に同行する機会が多く、魂で引っ張っていくような迫力やリーダーシップに感銘を受けた。
そして、もうひとり。その挑戦を特別な目で見つめる人物がいた。三好一男師範である。はるばる高知からやってきたのは、組手の主審を務めながら、弟子を一番近くで激励するためだった。実際、繰り広げられる攻防に向けられた厳しいまなざし、握りしめられた拳には、言葉ではないエールが入り混じっているように見えた。 |